水魔女再考・10:ヴィム・ジェターク

 2024/04/13 Sat

水星の魔女

水星の魔女

父親としての姿

私のヴィムに対する印象は、プロスペラに対するそれと近いかもしれません。
1人のキャラクターとしてとても好きだし、
グエルくんが、というよりジェターク関連は丸ごと好きなのもあって、
人としてダメな部分もありつつ愛嬌があって、憎めないなぁ、と思っています。

でも、父親の支配から抜け出したグエルくんが、
最終的には父親を全肯定するようなラストを迎えてしまったことには、
やっぱりちょっと、モヤモヤしたものを感じてしまうなぁ。
物語序盤にて、威圧的で暴力も振るうなど、
おそらくは父親をモデルにした「強い男」のロールプレイをしていたグエルくんは、
スレッタとの決闘を機に、その無駄な鎧を引っぺがされたのだと思います。
(「あなたはとっても強かったです」というスレッタの言葉も大きいけれど、
 実力を出し切って戦ったのも、あれが初めてだったのではないかな、と解釈)

そして、ホルダー剥奪から学園出奔、ボブ期や地球での経験などを経て、
彼が生来持っていた優しさや穏やかさが顕になっていく様は、
キャラクターの変化や成長の描き方として、とても鮮やかだったと思います。

だからこそ、彼の心の軸になっている父・ヴィムが、
最終的に、人として、親として、CEOとして、彼にとってどういう存在になったのか、
何だかよくわからないままなのが、ちょっと心配でもあります。

客観的に見たら、実子(グエルくん)と同い年の庶子(ラウダくん)がいる時点で
かなりマイナスイメージなのだけれど、
2人を同じ学校に入れている上に、その関係を公にもしているので、
そもそもアド・ステラの倫理観・結婚観が現代日本とは違うのかなぁ。

あと、第2話でヴィムに殴られた後のグエルくんの表情については、
「初めて殴られて驚いている」と解釈する人と、
「殴られ慣れているので反発しない」と解釈する人と、
きっぱり分かれていたのように思うのですが、
この件って何か公式から言及があったんでしたっけ?

後者はもちろん悲惨だけれど、前者であっても、
「この年になるまで、横暴な父に殴られることもなく従順に過ごしていた」
とも言えるわけで、親子ではなく主従関係になっていたとしたら、
それもまた地獄だよなぁ、と思う。

ちなみに私は、その折衷案(?)で、
「兄弟の幼少期は、ヴィムは確かに優しい部分もあった。
 しかし、ミオリネが決闘のトロフィーとされたことによって、
 息子がホルダーの座を保持することに固執して、暴力的になってしまった」
……のではないかなぁ、などと思っています。
人前でもバンバン殴るようになったのは、ここ1、2年のことだったのでは、って。
第3話で、ダリルバルデの前で殴られた時も、
周りのジェタ社のスタッフは別に動揺していなかった……ような気がするのですが
(記憶違いだったらごめんなさい)、
彼らにとって、もう見慣れた光景になってしまっていたのかな、って。

異母兄弟邂逅シーン(第23話回想)や設定画(配信特番)などから、
自分好みに解釈して落ち着いた結果ですが、
そもそも、ここらへんも視聴者それぞれで違っている可能性が高いし、
だからこそ、ヴィムの評価も人それぞれでだいぶ差がありますよねぇ。
好きなキャラに対してはついつい甘くなっちゃうけれど、うーん、難しいですね……。
3年後のエピローグでは、
ジェターク社がアスティカシアの再建に尽力したことを
エラン様の台詞から窺い知ることができます。
これは、社を継いだグエルくんが
「兵器一辺倒ではない、父親とは違う路線を進み始めている」
ことを示しているのかな、と思っているのですが、
正直、これだけではちょっと弱いというか、
これまでの彼の経験が生かされているのかどうなのか、
ちょっとわかりにくい気もしています。

あと、今ちょっと思ったけれど、「アスティカシアの存続」って、
もしかしてグエルくんが「個人的に」やっていたりする?
「ジェタ社のCEOとして」の業績だと思い込んでいたけれど、
それ自体、私の勘違いだったりする……?

ま、まぁ、それは置いといて、
グエルくんにはせっかくラウダくんという弟がいるのだから、
いつか2人で、父さんのいいところも悪いところも、
尊敬しているところも、あれはダメだよな、ってところも、
穏やかに話し合えていたら、いいですよね。
ていうか、本編でそういうのをやってほしかったですよ。

でも、そういえば、
「ラウダくんから見た父親像」は特に語られることがなかったなぁ。
ラウダくんにとっては、
ヴィムよりグエルくんの存在の方がよっぽど大きかっただろうし、
父親に対して、一見、従順に振る舞っていたのは、
将来的に兄を支え、助けることにつながると信じていたからでは、
と思っているけれど、どうなんでしょうね。

ついでに言うと、ラウダくんについては、
主に物語終盤の兄弟喧嘩&エピローグのせいで、
視聴者からの好き嫌いがはっきり分かれるキャラになってしまったなぁ、
ちょっと可哀想だなぁ、と思っています。
シュバルゼッテもそうだけれど、いろいろなしわ寄せを一身に負ってしまって、
不運としか言いようがない……。
どうしてもあの展開じゃなきゃいけなかったんですかねぇ?
作っている人たちは、あのわけのわからなさを、疑問に感じなかったんだろうか……。

ジェターク家

前回の「水魔女再考・9:プロスペラ・マーキュリー」では、
青年心理学の授業で聞いた話のことを少し書いたけれど
(あくまで、当時の講師の「所感」で、定説とか常識ではないですが)、
「親子間の問題を解決するには、当人から遡って3代まで調査する必要がある」
とも習いました。

この知識は、個人的にはオタク的妄想をする時にもとても役立っているのですが、
水魔女では、このジェターク家がうってつけのモデルケースになっているなぁ、
などと勝手に楽しんでいました。
そもそも、水魔女って、生い立ちがはっきりしているキャラが少ないですよね。
主人公のスレッタは、リプリチャイルドという重大な秘密があったにも関わらず、
その具体的な詳細が未だによくわからないままだし、
水星での暮らしも、本編ではほとんど触れられることがありませんでした。

ミオリネは、父デリングがヴァナディース事変を強行した理由が
正直なところ、よくわからないし(私の理解力の問題かもしれませんが)、
母ノートレットについても、妙に母性を強調されて終わっただけで、
どういう人物だったのかは謎のままです。

シャディクは地球出身の孤児で、
革命を決意するほどの過酷な目に遭ったのだろうけれど、
ミオリネと両片想いという公式描写が、ある意味ノイズになってしまって、
やっぱり何だかよくわからない……。
((↑)この設定自体はとても好きだけれど、経緯が不明なので、
 もうちょっと本編でそこらへんにも触れてくれたら、双方単体にも深みが出たのに、
 惜しいなぁ、もったいないなぁ、という気持ち……)

エランさん(4号)は強化人士になる過程で記憶も失った……んでしたよね?
そしてそもそも、エラン様(本人)も、
結局のところ何者なのかはよくわからないままでした。
(ペイルのおばあちゃんたちの血縁か、遺伝子操作から生まれたのかと思っていたら、
 特にそうでもないらしくて、逆にびっくりしました)
そんな中で、ジェターク家だけが作中で唯一、三世代が登場しているのですよね。
ヴィムの父でありグエルくんたちの祖父にあたる男性が、
プロローグにてちょろりと登場しています。
あと、ヴィムが何代目かは明かされていないけれど、
御三家筆頭ということもあり、MS製造の老舗なのでは、とも想像できます。

上述したように、グエルくんはヴィムから暴力を振るわれていたけれど、
もしかしたらヴィムも、父親からそんな扱いを受けていたのかな、とか、
だから、暴力で支配することに疑問を持たなかったのかな、とか、
勝手な憶測ですが、いろいろと考えちゃうんだよねぇ。
(虐待の連鎖は、実際に起きやすい問題でもあるし)

まぁ、ここらへんは私の感想だけれど、
ジェタ社贔屓というフィルターを外してみても、一般的な視聴者として、
情報が適度に公開・更新されているキャラの方に興味が行くのは、
むしろ自然なことなんじゃないのかなぁ。
家族関係やそれまで背負っていたものがわかりやすく提示されて、
何が起きてどう思ったか、それがどんな行動に繋がったのか、
メインの女子2人よりもよっぽど丁寧に描写されていたと思うし、
情報量が多いキャラに対しては、共感であれ反発であれ、
見ている側にもイメージしやすくなるので。

だからこそ、彼の経験や生き方が、
はっきり言って彼女たちにさほど影響もないままで終わってしまった(ように見える)、
あの終盤の展開やラストが、謎なんだよねぇ。
ジェターク家の物語だけ半ば独立してしまったし、
「グエルに尺を取りすぎだ」と非難(?)する声も出ているわけで……。

少なくとも序盤では、意図的にジェターク家の描写を丁寧にやっていたと思うのですが、
そういうのを活かせないままで終わったのは、
やっぱり、展開や脚本の大幅な変更があったんだろうかなぁ……。
うーん、いろいろ、もったいなさすぎるよ……。
……と、ここまで書いて思ったけれど、
グエルくんやジェターク家をここまで大きく扱ったなら、
その対極の存在として、「アーシアンの『プリンス』」であるシャディクのことも
やっぱり同じくらいしっかり描いてほしかったなぁ、と思います。
「グエルよりもシャディクを描くべきだったのでは?」ともよく言われているけれど、
水魔女の諸々のバランスの悪さとか匙加減のダメっぷりが、
ここにも出てしまっているよなぁ……。

もしもそれがクリアできていたら、
第20話の2人の対決も、さらに盛り上がったと思うんだけどなぁ。

ヴィム生存ルート

そうそう、最終回のわりとすぐ後から現在に至るまで、
「あのラストなら、せめてグエルくんにお父さんを返してあげてほしかった」
「ヴィム自身が義肢を必要とする身体になったとしたら、
 その開発にめちゃくちゃ真剣になりそう」
といった声をぽつぽつとお見かけするのですが、
いや〜、ほんとうに、そうだよねぇ〜。

だいたい、ジェタークの男がジェタークのMSに乗って、
爆発四散したくらいで死ぬわきゃあないんですよ!(暴論)
ジェタークのCEOたる者、
くるくるポーン脱出(第20話のグエルくん参照)くらいお手の物でしょ?

ショックで一時的に記憶を失ったまま、どこかのフロントで保護されていた父と、
会社の立て直しに奮闘していた2人の息子が感動の再会を果たす、
そんなラストでもよかったじゃあないですかー!!(机ダーン!!)

ヴィムなら、腕や脚の1本や2本失ったって、
GUND を着けて文句を言いながらガンガン改良していきそうじゃない?
周りも、CEO 自らが纏っているものなのだから、
そりゃあ真剣に技術の改良に取り組むでしょうよ。

あっ、この路線だったら、ペトラちゃんが両脚を失う必要もないですよね?
骨折くらいですませてもいいですよね?
私、義肢要素をペトラに押し付けて雑に解決させた(ように見せかけられた)ことにも
めっちゃくちゃ腹立ててますんで! むかぷんぷん!

やっぱり、例え同じ要素を拾っても、
いくらでも読後感というか最終回の印象を変えられるんだから、
ほんとうに、なぁぁんであのラストでハッピーエンドをゴリ押しできると思ったのか、
私にはさっぱりわからないよ……。

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